膵がん治療

膵がんの性質

 膵がんは、比較的小さなうちから膵臓の周囲にしみ込むように広がったり、肝臓や肺、リンパ節、腹膜などの膵臓から離れた場所に転移することが多いため、見つかった時には、すでにかなり進行した状態になっていることが少なくないのが現状です。

 

 膵臓内やその周囲にとどまった状態であれば、手術によって膵臓やその周囲の臓器・血管とともに切除することで、治すことができる場合があります。また、近年、膵がんに有効な抗がん剤が複数開発され、治療に使われるようになったため、手術との組み合わせによって治る患者さんの数は増えています。完全に治らないとしても、抗がん剤治療を受けながら通常の生活をかなり長く継続できている患者さんの数も増えています。

 

 

膵がんの進行度分類と切除可能性分類

 膵がんをその進行度によって分類するのがステージ分類で、0、Ⅰ、Ⅱ、Ⅲ、Ⅳの5段階に分類されます。これとは別に、切除可能、切除可能境界、切除不能の3つに分類する切除可能性分類があります。切除可能性分類は、膵がんの進行度に応じて膵がん本体が安全に切除できるかどうかという観点での分類です。もちろん、安全な切除が可能かどうかは、膵がんの状態だけでなく外科医の技術にもよります。

 

 なお、ステージ0 膵がんは、基本的に手術のみで治すことができる状態で、2018年頃から検診などで見つかるケースが増加してきました。ステージ0 膵がんについては別途ご説明します。ここではステージⅠ以上の膵がんについてご説明します。

この表は日本の膵癌取扱い規約に準じていますが、一部を簡略化した説明です。重要な動脈とは、腹腔動脈と上腸間膜動脈です。この2本の動脈を通ってお腹の臓器の大半に血液が流れます。切除可能性分類は、その詳細をここに示すには専門性が高すぎるため、詳細については個別にご説明します。

膵がん治療の考え方

 ここからは切除可能または切除可能境界の膵がんを対象に説明します。

 

 膵がんに対する治療は、手術、放射線療法、化学療法(抗がん剤による治療)があり、これらは単独もしくは組み合わせで実施されます。膵がんを完全に治すためには手術によってがんを切除する必要があります。しかし、ここで一つ注意が必要です。「膵がんを治せる唯一の治療は手術(がんの切除)である」という説明がしばしば行われます。これは誤りではありませんが、「手術で膵がんを除去すれば、膵がんは必ず治る」という意味ではありません。実際には、手術だけで治せる膵がんは一部に限られており、残念なことに手術で無事に膵がんを除去できても、高い確率で膵がんは再発します。

 それでは膵がんはなぜ切除したにも関わらず再発してしまうのでしょうか?

 転移した膵がんはある程度の大きさにならなければ、CTやMRI、PETなどの画像診断では検出されませんし、お腹を開けて直接見ても見えません。そのため、画像検査で検出されたり、実際に目で見たり触ったりして分かる膵がんのすべてを手術で切除できたとしても、多くの患者さんではそれ以外のどこかに目に見えない大きさの膵がんが残っています。そして、その残っていた膵がんが大きくなることで、「再発」と診断されることになります。そこで、そういった目に見えない転移を抗がん剤で治療することが、膵がん治療ではとても重要なのです。

 つまり、例え手術が可能な状態であっても、できる限り化学療法を受けた方が良いということです。

 

 

化学療法を先行する治療方法

 膵がんの性格(悪性度や抗がん剤への反応の具合)は患者さんによってさまざまです。投与された抗がん剤が、目に見えない転移に対して有効でない場合は、抗がん剤治療を行ってもそれらは大きくなります。

 

 手術がうまくいったけれど、目に見えない転移が隠れていたとします。手術後に抗がん剤治療を行っても、目に見えない転移に対して抗がん剤が有効でない場合は、それらが大きくなって、再発と診断されてしまいます。また、目に見えない転移に対して抗がん剤が有効な場合でも、手術後の合併症や体力低下によって抗がん剤治療ができないと、目に見えない転移はやはり大きくなって再発と診断されてしまいます。

 

 そこで近年注目されているのが術前補助治療です。手術の前の数か月間、化学療法または抗がん剤に加えて放射線を併用した化学放射線療法を行います。

 術前補助治療が有効であれば、目に見えない転移が消失することが期待できます。さらに、膵がんの本体が小さくなると、手術で確実に除去できる可能性が高くなります。

 2019年以降、切除可能な膵がんであってもに術前化学療法を行うことがガイドライン上でも推奨されるようになりました。実は、私たちは10年以上前(2008年)から先進的に術前化学(放射線)治療を積極的に行ってきました。その結果、これまで多くの患者さんで良好な治療結果を得ています。膵がんは難治性と言われていますが、その治療内容は年々変化し、成績も徐々に改善しています。膵がんの治療方針を決めるにあたっては、少なくとも一度は専門医の意見を聞いてみることをお勧めします。