腹腔鏡下膵体尾部切除術

膵臓

 膵臓は腹腔内(お腹の中)にある臓器です。胃の後に位置し、みぞおちのあたりから左側に向かって細長く横たわっていて、背中側に張り付くように固定されています。左端は肋骨と横隔膜に囲まれたもっとも奥深い位置で脾臓に接しています。膵臓は肝臓とともに、消化機能の中枢的な役目を担っており、重要な血管と複雑に接しています。

 膵臓の役割には、内分泌機能と外分泌機能があります。

 ・内分泌機能;インスリン やグルカゴンといったホルモンを血液中に分泌して血糖値の

        調節を行います。

 ・外分泌機能; 膵液 と呼ばれる消化液を十二指腸内に分泌して食物の消化を助けます。

 膵液は非常に活性度の高い消化酵素です。そのため、膵液の分泌障害が起こると重篤な炎症(急性膵炎)が起こります。急性膵炎は、しばしば命に関わる重篤な状態まで悪化することがあります。また、膵炎や膵臓の手術後に膵液が膵周囲に漏れ出ると、膵液は膵臓自身やその周囲の臓器・血管を消化するため、危険かつ複雑な状態に陥ることがあります。

 

膵体尾部切除術

 

 膵体尾部切除術では、膵臓の尾部(膵臓の左側1/2かそれ以下)もしくは体尾部(膵臓の左側約2/3)を脾臓とともに切除します。お腹の左上の肋骨と横隔膜に囲まれたもっとも奥深い位置での手術操作が必要なため、開腹手術では大きくお腹を切開する必要があります。一方、腹腔鏡下手術では、膵臓や脾臓を摘出するために必要な4~5cm程度のきずで済みますので、手術後の痛みが少なく、体力的な負担が大幅に軽減されます。

脾臓

膵体尾部

膵頭部

膵体尾部と脾臓を切除する膵体尾部切除術のイメージ

 手術は全身麻酔下に行います。臍もしくはその近くに約1cmの小孔を開け、小開腹します。そこから炭酸ガスを送気し、お腹をドーム状に膨らませます。スコープを挿入し、内部を観察します。引き続き0.5~1cm大の穴を4~5ヶ所開け、そこからスコープや手術の道具を挿入し、モニターを見ながら手術を行います。

一般的な腹腔鏡下手術のイメージ

気腹によってドーム球場のような状態になる

 膵体尾部と脾臓を栄養する脾動脈を切離し、専用の機材(自動縫合器)を用いて膵臓を離断します。その後、膵体尾部と脾臓を周囲から剥離して臍の傷から摘出します。術後の出血や膵液の漏れが起きた場合に、血液や膵液が体内に貯留しないように、細い管(ドレーン)を腹壁の穴の2ヶ所から膵臓のあった付近に向けて留置します。そしてその他の穴を縫い閉じて、手術は終了です。傷は吸収される糸で内側から縫いますので抜糸は要りません。膵臓を切る位置やお腹の中の癒着の状態にも寄りますが、手術は通常1時間半から3時間半くらいで終了します。

 

手術後の経過

 手術後、麻酔がさめて意識がおおよそ戻った状態で病室に帰ってきます。麻酔は翌日の朝にはほぼ完全に覚めます。手術翌日の朝から水を飲み始めます。2~3日目くらいに食事を開始します。その後、問題がなければ1週間以内にドレーンを抜きます。通常、抜糸は必要ありません。入浴はドレーンが抜けてから可能になりますが、それまでの間もシャワー浴や洗髪は可能です。予定通りに経過した場合、最短で7日目くらいに退院となります。退院時の状況は、自宅で散歩や家事が可能な状態です。それぞれの患者さんのもともとの健康状態にもよりますが、通常は退院後2週間くらいで重労働以外の仕事は可能になります。

膵液漏れ(膵液瘻)

 膵臓で作られている膵液は、消化活性の非常に高い液体です。膵臓を切離した部位から膵液が漏れると、治りが悪く、ときに重篤な合併症を引き起こします。膵臓の周囲には大きな動脈が走行しており、膵液によって動脈が損傷されると大出血を起こして、生命にかかわる重篤な状態に陥ることがあります。

 

 そこで、切離部付近に排液用の細いチューブ(ドレーン)を留置し、膵液が漏れた場合には、これによって膵液が体内に溜まらないよう、体の外に吸い出します。大量の膵液が長期間にわたって漏れる場合は、傷の治りが大幅に遅延しますので、長期間の入院が必要になります。

 膵液が漏れる確率は比較的高く、一般的には約30%と報告されています。しかし、私たちのチームを含む一部の膵臓専門外科チームは、1~5%と良好な成績を報告しています。