腹腔鏡下胆嚢摘出術

 本田医師は、豊富な経験をもとに腹腔鏡下胆嚢摘出術を安全に行うための基本的な手術手技を標準化し、国内外で多くの外科医を指導しています。特に急性・慢性の胆嚢炎では、その標準手技をマスターすることで​、合併症を無くし、さらに開腹手術への移行率を究めて低くすることができます。

胆嚢

 

 肝臓にはいくつかの重要な働きがありますが、その中に胆汁を作る働きがあります。 胆汁は肝臓を出ると胆管を通って十二指腸へと流れていきます。 十二指腸内で食物と混ざり合い、食物中に含まれる脂肪分の消化を補助します。胃や十二指腸に食物がなければ、胆汁は無駄にならないよう胆嚢内に貯留します。そして、胃内に食物がたまると胆嚢は収縮し、効率的に胆汁が流れる仕組みになっています。

肝臓

胆嚢とその周囲の臓器

胆石症

 何らかの原因により胆嚢の収縮機能が低下すると、胆嚢内に胆汁がうっ滞して濃縮されるため、泥→砂→石と固形化することがあります。こうしてできた固形物を胆石と呼びます。

 胆石は、何らかの症状(胆石発作;上腹部や背部の痛み・吐き気など)がある場合に手術の適応となります。胆石があっても無症状の場合は経過観察とするのが標準的な考え方ですが(※1)、胆嚢癌の合併が疑われる場合には、たとえ無症状でも手術をお勧めすることがあります(※2)。

 

※1 無症状で経過している胆石が何らかの症状を発現する確率は、1年に1~4%ずつで20年間では10~30%と言われています。つまり、胆石があっても大半の方が何年も無症状のまま過ごされるようです。ただし、胆石が原因で高熱や激痛を伴う急性胆嚢炎を引き起こしたり、総胆管に石が流れ落ちて総胆管結石になることがあります。総胆管結石は胆管炎や膵炎を合併することがあり、これらは生命に危険を及ぼすこともあります。

※2 胆嚢癌になった胆嚢の中にはしばしば胆石が含まれています。しかし、これまでの調査や研究では胆石が癌の発生率を明らかに上昇させるということは証明されていません。

​急性胆嚢炎

 胆嚢に急性の炎症が起こった状態です。 急激な炎症により発症し、強い症状(腹痛・発熱・嘔気・嘔吐など)を伴います。 原因としては胆石が最も多いのですが、何らかの理由で何日も食事を摂取していない場合に、胆石が無くても急性胆嚢炎を起こすことがあります。

 急性胆嚢炎は抗生物質を投与することで落ち着く場合もありますが、多くの患者さんは手術によって胆嚢を摘出する必要があります。急性胆嚢炎を発症した場合、全身の状態が重篤でなければ、できるだけ早めに腹腔鏡下胆嚢摘出術で胆嚢を摘出することが推奨されています。しかし、胆嚢炎に対する腹腔鏡下胆嚢摘出術は、炎症の無い胆嚢に対する手術と比較して難度が高く、高度な技術を要する場合がしばしばあります。

慢性胆嚢炎

 症状の軽いものから重いものまでさまざまな急性胆嚢炎を起こして炎症が治まった後に、胆嚢の壁が厚く硬くなります。これによって胆嚢が拡張・収縮する機能が低下します。

 

 慢性胆嚢炎と胆嚢癌を鑑別する(見分けること)が難しい場合があります。一般的に慢性胆嚢炎と胆嚢癌の鑑別はエコー検査やCT検査を用いて行われますが、胆嚢癌ではないことを十分に確認できない場合には手術により切除し、切除した実物全体を病理検査(顕微鏡による検査)で判定する必要があります。

 慢性胆嚢炎に対する腹腔鏡下胆嚢摘出術は手術難度が高く、高度な技術を要します。胆嚢癌との鑑別の問題もありますので、手術を緊急で行う必要が無ければ、一度専門医に相談することをお勧めします。

​胆嚢ポリープ

 胆嚢内にできる良性腫瘍ですが、大きさが1cm以上の場合や増大傾向を認める場合には悪性(胆嚢癌)である可能性が若干高くなり、手術により切除した実物によって判断する必要があります。しかし、1cm以上でも多発性でポリープの根元が細い茎のような形状をしているコレステロールポリープ(胆汁に含まれるコレステロールの沈着によりできるもの)は3~6ヶ月毎の経過観察でよく、手術をする必要はありません。

胆嚢腺筋(腫)症(アデノミオマトーシス)

 胆嚢の壁を構成する粘膜と筋層の一部に厚みのある部分が形成されるもので、腫瘍性病変(癌やポリープ)ではありません。しかし、エコー検査やCT検査で指摘される胆嚢壁の厚みは腫瘍性病変との鑑別が難しい場合があります。エコー検査やCT検査だけでは腫瘍性病変との十分な鑑別ができない場合には手術により切除した実物によって判断する必要があります。


 また、胆嚢腺筋症は胆嚢の収縮機能をくるわせるため、胆汁の停滞により胆石を形成したり、胆石が無くても胆嚢の異常収縮による痙攣発作(上腹部や背部の痛み・吐き気などの症状)の原因となったりします。胆石合併の有無に関わらず症状がある場合には手術の適応となることがあります。

胆嚢腺筋症にはいくつかのタイプがあり、右図のように真ん中付近にできるタイプは高齢になると胆嚢がんになりやすいというデータがあります。

胆嚢癌

 胆嚢内にできる悪性腫瘍です。進行した胆嚢癌は予後不良で、うまく切除できた場合でも再発率が高いのですが、早期胆嚢癌は比較的予後良好で、切除により完全治癒が期待できます。

 胆嚢癌に対する標準的な手術は、できるだけ取り残しの無いよう周囲のリンパ節や肝臓の一部を含めた切除を開腹手術で行います。胆嚢癌であることが明らかな場合や胆嚢癌の可能性が高い場合には、胆嚢癌に対する標準的手術を受けることをお勧めします。


 ただし、一部の早期胆嚢癌は胆嚢のみ摘出すれば十分な場合もあり、ご本人の希望がある場合や高齢で腹腔鏡下手術による体力温存の利点が大きい場合などは、相対的な適応として腹腔鏡下胆嚢摘出術を行うことがあります。


 その他、胆石症等の良性疾患の診断で腹腔鏡下胆嚢摘出術を行った後に病理検査で胆嚢癌が見つかった場合には、改めて追加手術をお勧めすることがありますが、明らかに早期癌であれば追加の手術を行わずに厳重な定期検査を行って経過を見ることをお勧めすることもあります。

腹腔鏡下胆嚢摘出術

 経験の豊富な施設では、上腹部手術の既往や炎症の有無などがあっても、腹腔鏡下に癒着を剥離して胆嚢摘出術を問題なく完遂することが可能です。

 

 手術は全身麻酔下に行います。 はじめに臍に約1cmの小孔を開け、小開腹します。そこから炭酸ガスを送気し、お腹をドーム状に膨らませます。スコープを挿入し、内部を観察します。引き続き1cm大の穴を3ヶ所開け、そこからスコープや鉗子を挿入し、モニターを見ながら手術を行います。

 胆嚢管と胆嚢動脈を確認し、クリップをかけて切離し、胆嚢を肝臓から剥がして臍の穴から摘出します。摘出後、穴を縫い閉じて、手術は終了です。

 

 穴は数カ月以内に吸収される糸で内側から縫いますので抜糸は要りません。手術時間は、胆石症に対する手術で通常1時間~1時間半、急性胆嚢炎に対する手術で1時間~2時間です。

術後の経過

 手術後、麻酔がさめて意識がおおよそ戻った状態で病室に帰ってきます。 麻酔は翌日の朝にはほぼ完全に覚めます。 麻酔を予定通りにさますことができた場合には、術翌日朝から水を飲み、昼から食事を始めます。 術後2日目からシャワー浴が可能になります。 術後2~3日目に退院となります。退院時の状況は、自宅で手術前と同じ様な食事をとって散歩や家事が可能な状態です。 通常は退院後1~2週間で重労働以外の仕事は可能になります。 それぞれの患者さんのもともとの状態にもよりますが、約1ヶ月後には手術前とほぼ同じくらいの体力に回復できる見込みです。